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2013年11月30日土曜日

酒、ユトリロとロートレック 秋も深まり~もう冬か?

だいぶ寒くなりました。寒々とした絵と言えばユトリロを思い浮かべます。今日は彼から連想できる事柄を書き連ねてみます。絵画についてとか、画家についてというより、ルー・リードの詠む詩にあるような「寒さ」について、ちょっぴりお酒を飲みながら。では。



アル中の画家には、有名どころでユトリロとロートレックがいる。
2人とも天賦の才があったからよかった(名が残った)ものの、そうでなかったら、どうしようもないただの酔っぱらいで終わっていたはずだ。

ユトリロには、クレーやダリ等のように、自分なりの絵画理論などなく、ただ素朴に無自覚にひたすら絵を描いていたことが良く見てとれる。
しかしその目でロートレックを観てみると、ボール紙だろうが継接ぎの板だろうが、自由闊達な筆さばきで見事な絵画作品をモノにしてしまうため、確かにクレバーな絵描きではあるが、ほとんど無自覚に絵を描いている点では、ユトリロとさほど変わらないのでは、と想えてくる。
片や自閉的な子供のように無心に黙々と彼ならではの孤高の「パリ郊外」を描き、片や高性能な自動機械のように何にでも瞬時に伸びやかな線で対象を描きとめてしまう、酒を飲む子供と酒が燃料のロボット。彼らは基本的に絵を描く快感だけで恐らく描いている。技術はいくらでも付いて来るし描くこと自体に障害はない。

ユトリロは淋しい孤独に染まった絵を描くが、当人は私は孤独だとか淋しいとかましてや思想的なことを抱えて制作に臨んでいたとは思えない。そんな自覚などなく描いていたからこそ、あの水準の作品をずっと描けていたと思われる。自分を対象化していたらとても描く事が辛くなる。
ロートレックだって、好きなものを好き放題に描いており、きっちり描ききろう等と言う気すらない。これは、セザンヌが画布の中央部あたりを空白で残しているのとは訳が違う。彼の場合、厳格な意思で残すべきところを正確に残している。ロートレックは多分、あるところまでリズミカルに描いてから、すぐに違う絵が描きたくなるのだ。しかしどの絵もあまりに見事なデッサンで成り立っているため、軽いフットワークで描いていても未完成には映らないだけなのだ。少なくとも何をか考えて描いているようには見えない。

ユトリロは私生児であり、母親はかの恋多き優れた女流画家シュザンヌ・バラドンである。
母親が奔放に生きてゆく中、ユトリロは17歳でアル中になる。しかしシュザンヌはユトリロに絵を描くことだけは教えてくれた。
彼はそれだけを頼りに、「絵画」だの「芸術」だの今トレンドの絵画の[流派」丁度その頃は、未来派・キュビズム・シュルレアリスムの勃興等には何の興味も示さず、絵を描いた。もともと自分が画家だとかいう意識すらもたなかったであろうユトリロは、ただ自分の絵をひたすら描き続けていた。ユトリロにとって絵は自己表現ではなく、ましてそれを手段に何かを訴えるようなものではなく、そんな距離等全く無い自律的な運動、ほぼ呼吸に近いものであっであろう。だから描かなければ間違いなく死んでしまう。実際アル中を抑えるのは絵を描くことだけだった。
描いた絵は、ほとんど人のいない、いても後ろ姿が遠くに見えるだけの、冷えた空気のなか、すべての窓が扉が固く閉ざされたパリの街の姿だ。木々は枯れている。どれも同じ外気と冷たい風が吹き抜ける夥しい数のパリの光景がそのままユトリロの心象―生きる現実と重く重なる。

ロートレックは、由緒ある名門貴族の生まれで、裕福に何の不自由もなく暮らしていたが、階段から落ちる事故で、下半身に障害を抱えてしまった。14歳の時である。
それから、彼は絵を本格的に始める。
当初からロートレックは才能を示すが、彼の絵には重さはない。非常に遊びの精神が感じられ、しなやかな線は活き活きと走っている。実際ユーモアがあり、拘りもない。彼の描く人物たちの表情の誇張を観れば彼がいかに楽しく絵を描いていたか分かる。どんな素材でもあまり気にしないでそれを有効活用して描いてしまう。油絵でもリトグラフでもポスターでも頼まれれば、何でも描いてみせる。ロートレックによってポスターは独立した芸術の一つとして見られるようになったのも確かである。これは彼の大きな功績だが、べつにそんなことどうでもよいことだった。
ロートレックにとって、自分の住処はもはや貴族の世界ではなく、キャバレーであり娼婦の部屋であった。そこで絵を描く以外に道はなかった。彼はムーランルージュの踊り子や娼婦たちとの極めて自然な付き合いの中で、彼女らに溶け込み絵を描いている。そこに生まれる絵はどれも驚くべきスナップであり、誰一人として自分が画家に描かれていることなど気付いていないかの如くである。本当に彼女らはロートレックに気を許しており、いつもの孤独で平穏な空気が素直に描かれていることが分かる。これは稀有な才能と障害の齎すものであろうか。
ロートレックは、熱気あふれる扉の内側に空気のように溶け込み、パリの風俗と人々のあり様に共感を寄せて、アル中の悪化で倒れるまで、ひたすら彼らを描き続けた。


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